前回の花粉症の記事でも腸内環境を整えることが大事とお伝えしました。タンパク質、ビタミン、ミネラル、これらの栄養素を摂っていくことも大事ですが、まずは腸内環境を整えることで、身体に必要な栄養素も吸収されやすくなっていきます。逆に言えば腸内環境が整っていない状態で、いくら栄養を摂っても、もちろん摂らないよりはいいですが、効果も半減してしまうのです。
今回は身体のことを考える上で最初に取り組むべき内容です。
今回はオーソモレキュラー栄養療法の観点から腸内細菌叢について書いていきます。
ミトコンドリア
マイクロバイオーム(微生物)の歴史は古く、20億年前、古細菌と遊泳細菌の合体により真核細胞が誕生します。10億年前、この原生生物が好気性細胞を取り込み酸素を使って生きる生物が誕生します。ミトコンドリアはこの好気性細胞の子孫です。つまり細胞内には細菌の子孫が生息しているのです。ミトコンドリアはATPエネルギーを産生する器官で95%はミトコンドリアが作っています。量は成人体重の10%、細胞質の40%を占めます。ミトコンドリアは数が多いほど質が向上するので、単純にミトコンドリアが少ない人は疲れやすく、多い人は疲れにくいと言えます。増やすにはストレス、栄養素が大事で、良いストレスとは適度な有酸素運動、ファスティング、日光浴、悪いストレスは大気汚染や精神的なストレス、低体温、過食、人工化学物質が挙げられます。
栄養素では代謝に必要なビタミンB、ミトコンドリアを守る酵素としてマグネシウム、亜鉛、酪酸、短鎖脂肪酸が挙げられ、ミトコンドリアがエネルギー化しやすいと言われています。
腸内細菌叢とは
細菌と聞くと悪いイメージもあるかと思いますが、人間は母親の胎内にいるときは完全に無菌状態ですが、分娩と同時に外界や産道からの細菌の汚染を受けます。そして、腸内にはたくさんの細菌が住み着くようになります。この細菌を腸内細菌、腸内菌と呼び、この集まりを腸内細菌叢、腸内菌叢と呼びます。人間はこの腸内細菌叢とは一生、切っても切れない関係なのです。
腸内フローラとは最近よく耳にするかと思いますが、人間の腸に生息している腸内細菌は小腸から大腸にかけてお花畑(フローラ)のように種類ごとに群生していることから腸内フローラと呼ばれています。細菌は皮膚をはじめとして、消化管、呼吸器系、口腔、膣などの体の内側を含めたあらゆる体表面に存在し、それぞれの場所に固有のバランスを保って定着しています。中でもその数、種類ともに最も豊富なのが消化管で、定着している細菌の90%は消化管に生息しています。
胃、小腸、大腸と進むにつれ、微生物の数は上昇し、消化管7mのうち、最後の1.5mにあたる大腸には腸内マイクロバイオームの3/4が生息すると言われています。
腸内細菌には主に善玉菌、悪玉菌、日和見菌の3つがあります。善玉菌、悪玉菌と聞くと、善悪、良いもの悪いものと判断しそうです。
健康な人であれば、善玉菌20%、悪玉菌10%のバランスになり、残りの70%は日和見菌と言われています。善玉菌が優勢だと良い働きをし、悪玉菌が優勢になると悪さをします。しかし善玉菌の中には他の菌と作用し合うと悪さをする菌もいますし、逆に悪玉菌でも状況次第で良い働きをする事があります。日和見菌は善玉菌が優位の時はおとなしいですが、悪玉菌が優位の時は一緒に悪さをする事があります。少し人間社会と似ているところがあります。
過敏性腸症候群
お腹の痛みや不快感に下痢や便秘を伴う症状が続く病気を過敏性腸症候群といいます。現代の医学では血液検査や内視鏡検査でも異常が見つからず、ストレス刺激によって胃・十二指腸の運動を抑制することで症状が悪化するとされています。男性では腹痛やお腹の不快感とともに下痢型に。女性では便秘型になることが多いようです。致命的な病気ではないですが、電車や会議中など、トイレがない場所に長時間いられないなど、生活の質(QOL)を下げてしまいます。
原因ははっきりと解明されていませんが、ストレスホルモンが脳下垂体から放出され、その刺激で腸の動きがおかしくなり、症状が出るといわれています。
脳腸相関(ミッシングリンク)という言葉を聞いたことはありますでしょうか。
腸は「第2の脳」とも呼ばれる独自の神経ネットワークを持っており、脳からの指令が無くても独立して活動することが出来ます。腸細胞にはシナプス(神経抹消)が存在し、迷走神経を経由して脳幹にたどりつきます。脳腸相関とは、生物にとって重要な器官である脳と腸がお互いに密接に影響を及ぼしあうことを示す言葉です。脳が自律神経を介して、腸にストレスの刺激を伝え、腸に病原菌が感染すると、脳で不安感が増すとの報告もあります。また脳で感じる食欲にも、消化管から放出されるホルモンが関与することが示されており、腸の状態が脳の機能にも影響を及ぼすことを意味しています。
炎症体質
さらに、この動きが繰り返されることで、腸が刺激に対して「知覚過敏」になり、ほんの少しの痛みや動きから、脳のストレス反応を引き出してしまい、症状が強化されるという悪循環に陥ってしまうのです。一般的な治療では薬とストレスマネジメントによる治療が多いようです。
過敏性腸症候群を患っている方は感情表現が苦手な人が多く、自分の喜怒哀楽をうまく言葉で表現できない、感情を自覚できずに、代わりに身体が辛いと表現することで症状が起こるとされています。消化器内科で治療薬を処方され、ストレスマネジメントにより、自分の症状が、どういう状況や出来事で酷くなるのかを評価、避けられるストレスであれば避ける方法を、または自分が楽になる考え方や発散の仕方を探っていきます。
しかしライフスタイルや考え方、性格が元のままでは、結局同じことを繰り返してしまいます。また薬で症状を抑えることでストレスを表現していた腹痛や下痢は落ち着くかもしれませんが、ますます無理をして、頭痛や胃の痛みなど他の症状が現れる原因にもなるのです。
抗生物質
世の中には多くの抗生物質が存在しますが、これも腸内環境を悪くする要因だと言われています。
人間の腸には100万種類、100兆個もの微生物が存在しますが、その中で病原体となる細菌は全体の1,400種類で、それ以外の微生物は体にとって必要な働きをしてくれます。
抗生物質による副作用で最も多いのが薬疹ですが、薬剤性肝機能障害と言う副作用も多数報告されています。自覚症状は乏しく、血液検査を行なう事によって分かる場合が多く、強い疲労感などが出ます。投与を継続すると、薬剤性肝機能障害が重篤化する場合がありますので、内服薬でも発現する可能性があるので注意が必要です。
抗生物質が微生物の免疫系の伝達を阻害し、腸内細菌叢の多様性の均質性を阻害してしまうのです。また大腸内壁の細胞内のミトコンドリアにもダメージを与えてしまいます。抗生物質は、細菌を殺す作用がある薬であるため、腸内でいい働きをする有用微生物群も同様に殺してしまうこともあります。そのため下痢や便秘という副作用が起きる可能性が高く、この副作用を防ぐために、胃薬や下痢止めを処方し、さらに有用微生物の殺傷をするという悪循環になります。抗生物質が発見されたことによって病原菌は減りましたが、代わりに慢性疾患や自己免疫疾患は増えていると言われています。
少し話は逸れますが、家畜の牛や豚、鳥などに抗生物質が投与されているのはご存知かと思います。
これは動物が病気にかからないための他にもう一つ理由があります。それは抗生物質を投与することで牛や豚が太ると言われています。一頭、一匹から多くのお肉が取れた方が儲かることはすぐ想像がつくかと思います。そのお肉を私たちは食べているわけですが、抗生物質が入ったお肉を食べることで、腸内にいる有用な微生物に影響が出るだけではないかもしれません。お肉だけ食べても太らないと言われていますが、質の悪いお肉を食べることにより私たちの身体に影響はないのでしょうか。アメリカで販売されている抗生物質の80%は家畜用(牛、豚、鳥、羊、鴨、山羊)とも言われています。地球上70億人中20億人が肥満とのデータがありますが、これは糖や運動不足のみが原因ではなく、抗生物質の食材の影響も少なからずあるのではないでしょうか。
またバイ菌をしっかり除去しようと手洗い、うがい、シャンプーなどで綺麗に洗うかと思いますが、これも必要な細菌も殺してしまう要因となっているようです。匂いなどの問題もありますので、完全には否定できませんが、少しの汚れなら、流すだけでもある程度は落ちると言われています。細かく手洗いをしたり、過度に体を洗いすぎたりすることで、必要な細菌まで洗い流していることもあるようです。過敏すぎる清潔環境、土や自然との接触の減少、極度に殺菌された食物や水。今ある私たちの身体は毎日摂る食べ物で出来ている、ということに関してどれくらい真剣に考えていけるかだと思います。
次回はオーソモレキュラー栄養療法の観点から腸内環境を整える方法をご説明いたします。
- 土と内臓 (微生物がつくる世界) 著:デイビッド・モントゴメリー
- 失われてゆく、我々の内なる細菌 著:マーティン・J・ブレイザー