脂肪酸の基礎知識
三大栄養素の一つである脂質、いわゆる油。油は脂肪酸とグリセリンという分子からできていますが、今回はこの脂肪酸と炎症体質について説明したいと思います。
まずは脂肪酸について、皆さんはどのような知識をお持ちでしょうか?
サラダ油、オリーブオイルなど一般的に料理に使われる油や、アマニ油、エゴマ油など最近では健康にいいと注目を浴びているものもあります。
また、MCTオイルやオメガ6系、オメガ3系などよく聞くキーワードも増えてきました。脂肪酸には様々な分類があり、いまいちよくわからない。という人も多いのではないでしょうか?
まずはこの脂肪酸の分類についてお話したいと思います。
○鎖脂肪酸(鎖の数)について
油を構成する脂肪酸は大まかに3つの分類に分けられます。
短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸
名前だけは聞いたことがある人も多いと思います。
短「鎖」脂肪酸、中「鎖」脂肪酸、長「鎖」脂肪酸という名前の通り、「鎖」の数によって分類されます。脂肪酸は炭素が鎖状に連なって構成されており、この炭素の数が「鎖」として表現されます。その名の通り、短<中<長と炭素の数が多くなっていくわけです。
短鎖脂肪酸は炭素の数が2ー6個で代表なものが酢酸や酪酸。お酢や牛乳、乳製品に含まれます。
中鎖脂肪酸は炭素の数が8-12個で代表的なものがカプリル酸やカプリン酸。ココナッツオイルや牛乳、乳製品に含まれます。
近年話題になっているMCTオイルとはこの中鎖脂肪酸(Medium Chain Triglyceride)のことを指します。
長鎖脂肪酸は炭素の数が14-22個で代表的なものがオレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、アラキドン酸など。オリーブオイルやサラダ油、魚に含まれるDNAやEPAも長鎖脂肪酸に分類されます。
以上のように脂肪酸は含まれる鎖(=炭素の数)によって大きく3つに分類されることがわかりました。
次にもう一つ分類される重要な要素があります。
飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸について
鎖の数以外にも大まかに二つに分類されるのが飽和か不飽和か、です。
「飽和」とは隙間がなく、それ以上は入り込めない状態。をイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません。飽和脂肪酸は、炭素の結合の手が全て水素と繋がっており、飽和状態(それ以上は入り込めない状態)になっている脂肪酸です。全てが安定して結合しているので、物質としても安定しているものが多いです。
肉の油やバター、ココナッツオイルなど、固形のものが多いのも組織が安定している証拠ですね。
不飽和脂肪酸は、炭素の結合の手が炭素同士でつながった部分があります。これを炭素の二重結合といい、水素が足りない分、化学的に不安定(=不飽和)なものです。また、この二重結合の数が1個の場合は一価不飽和脂肪酸、2個以上ある場合は多価不飽和脂肪酸と呼ばれます。
一価不飽和脂肪酸の代表的なものでいえばオレイン酸。オリーブオイルの主成分です。
健康にいいと言われ最近注目を浴びているエゴマ油は多価不飽和脂肪酸で、二重結合の数が3つあります。オリーブオイルよりエゴマ油の方が酸化しやすいのは、この二重結合の数が多いので物質が不安定というわけです。
以上のように飽和か不飽和かによっても分類されることがわかりました。
更に不飽和脂肪酸には二重結合の場所によって3つに分類されます。
オメガ○系(nー○系)について
不飽和脂肪酸の中でも二重結合の場所がどの部分にあるか、によっても分類されており、オメガ○系(nー○系)と呼ばれます。
オメガとはギリシャ文字の「終わり」を意味する言葉で、化学配列の「終わり」から数えて何番目から二重結合が始まっているか。という意味になります。
オメガ3系、オメガ6系、オメガ9系と呼ばれ、不飽和脂肪酸はこの3つの中に分類されます。
特に気を付けるべきはオメガ3系とオメガ6系で、オメガ3系は血液をサラサラにし、坑炎症作用があるとされています。一方オメガ6系は血液凝固作用があり、炎症作用もあるのです。共にコレステロールを下げる働きはあるのですが、オメガ6系は善玉、悪玉両方のコレステロール値を下げると言われています。
これらの要素を取り入れ脂肪酸一つ一つが分類されているわけです。
中鎖脂肪酸、不飽和脂肪酸、オメガ○系など聞きなれない言葉が多い脂肪酸ですが、ただ分類されているだけに過ぎないので、言葉の意味が理解できれば今使っている油がどういった分類に属しているのか、理解できるかと思います。
実際に身近なものを分類してみましょう
油、でイメージしやすいバターですが、この主な脂肪酸の成分は酪酸になります。
これは炭素の数が4つで、二重結合は0のため、短鎖脂肪酸の飽和脂肪酸という分類に属され、炭素の数も少なく飽和状態なので非常に安定した物質といえます。固形を保てるのもこの為ですね。
先程でたオリーブオイルの主成分、オレイン酸ですが、炭素の数が18個、二重結合が1つ、また二重結合が9番目から始まっているので長鎖脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、オメガ9系の脂肪酸ということになります。
このように
- 鎖の数=物質の長さ
- 飽和か不飽和か、また二重結合の数=物質の安定度
- 何番目に二重結合があるか=不飽和脂肪酸の種類
という風に読み取ることができます。
一口に油といってもこれだけ細かく分類されているということは、それぞれ役割が違うということになります。
極端な話一日に摂取する脂質の内全てがバターであった場合、数値上では必要な量を摂れていたとしても実際は体内に必要な脂肪酸を摂取できていない。ということになります。
では次の項では体内に必要な脂肪酸について説明したいと思います。
必須脂肪酸とは
脂肪酸のなかでも体内で作ることができる脂肪酸と、作ることができない脂肪酸があります。
この体内で作ることができない脂肪酸を「必須脂肪酸」と呼び、食事やサプリメントから摂取しなければなりません。
必須脂肪酸は
-
- リノール酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸(オメガ6系)
・α-リノレン酸、DHA、EPA(オメガ3系)
になります。しかし、リノール酸からはγ-リノレン酸、アラキドン酸へ合成が可能で、α-リノレン酸からはDHA、EPAが合成可能なので、実際の必須脂肪酸はリノール酸(オメガ6系)とα-リノレン酸(オメガ3系)ということになります。
ではリノール酸とα-リノレン酸が多く含まれるものをしっかりと摂取していればいいのかと言われるとそうではなく、摂取するバランスによっては反作用してしまう事があるので注意が必要です。
リノール酸からアラキドン酸へと合成が進む過程と、α-リノレン酸からDHA、EPAへ合成が進む過程では体内の同じ酵素によって代謝されます。従って片方の摂取量が多ければもう片方の合成に必要な酵素と競合してしまい、うまく代謝する事ができなくなります。
結果、炎症体質になったり、血液がどろどろになったりするので注意が必要です。
これは次回炎症体質についての記事で詳しく説明したいと思います。
では実際のバランスについてですが、遡ること旧石器時代はオメガ6オメガ3は1:1だったとされています。
日本人は魚食が多く比較的オメガ3系は豊富に摂取していたとされていますが、現在は食の欧米化が進み、10:1~20:1とまで言われています。これだけオメガ6系の油を多く摂取していれば当然血液はどろどろに、炎症物質は必要以上に分泌し、体は炎症体質になってしまいます。
現在では4:1で摂取するのがいいとされていますが、人それぞれ吸収率は違うので自分にあった比率を知ることが大切です。
次回は炎症体質について脂肪酸との関係性、炎症体質セルフチェック、また炎症体質を改善するにはどうするといいか?について、詳しく説明していきたいと思います。