疲労は乳酸の蓄積が原因!?乳酸の本性とは

乳酸が蓄積すると疲労の原因!というイメージをお持ちの方が大多数だと思います。もちろん私もそのような考えをする内の1人でした。運動中や階段の上り下りで足が重くなる感覚。「あぁ、乳酸溜まってきた」と、思う方も多いのではないでしょうか?しかし近年、乳酸は疲労の原因ではなく、実はエネルギー源だからいい物質?という見解が主流になっています。

では、一体乳酸の正体は何なのか?という事を、オーソモレキュラー栄養療法と有酸素運動の観点からご説明したいと思います。

乳酸とは

まず乳酸の元となるものはグルコース(ブドウ糖)です。グルコースは糖質を含む食事の中から取ることと、糖質以外の材料を使って肝臓や腎臓で合成(糖新生)することもできます。ご飯やパン、麺、野菜など糖質を摂取すると消化器官でグルコースに分解されます。エネルギー物質であるATP(アデノシン三リン酸)を生み出すのに、グルコースが材料として使われます。

グルコースはまず細胞の「細胞質基質」で、何段階かの反応を経て「ピルビン酸」という物質になります。このグルコースからピルビン酸までに行き着く反応を「解糖系」と言います。その際に、ATPが2分子作られます。この解糖系の反応で「NAD+」という化合物が「NADH」に変化します。こちらは後で詳しく解説していきます。

乳酸が生じるかはピルビン酸がこの先どうなるかによって決まってきます。このピルビン酸は細胞質基質だけではなく、ミトコンドリアでも代謝ができます。細胞質基質での反応は解糖系と言いましたが、ミトコンドリアでの代謝は「TCA回路」→「電子伝達系」という反応が起こります。解糖系だけで代謝するよりも、ミトコンドリアで代謝した方がよりATPを多く作り出すことができます。

ピルビン酸は2通りのルートに進みます。前述したミトコンドリアで代謝しATPを作り出すルート。もう1つがミトコンドリアで代謝せず、乳酸が発生するというルートです。
ではその2通りのルートに進む違いは何なのでしょうか?

乳酸の発生原因

ミトコンドリアでのATP産生は酸素を多く必要とします。酸欠の状態では、ミトコンドリアで代謝することができません。しかし、細胞質基質で行われる解糖系は酸素を必要としませんので、激しい運動などを行い酸素が不足するような場合に、ミトコンドリアの代謝ではなく解糖系で酸素に頼らずにエネルギーを産生しているのです。

もう1つの原因としては、ビタミンB群などの「補酵素」の不足が挙げられます。補酵素は酵素のサポート役でビタミンやミネラルのことを言います。ピルビン酸がミトコンドリアで代謝するには、チアミン(ビタミンB1)をはじめとするビタミンB群が必要になります。これらが不足することでもピルビン酸は、ミトコンドリアでのTCA回路に入れず乳酸になってしまいます。

ピルビン酸が乳酸になる理由

ピルビン酸が乳酸に変換されるのには理由があります。その為には先ほど出てきた「NAD」(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)を理解する必要があります。NADは全ての生物に存在する補酵素であり、水素を外す「脱水素酵素」の補酵素で水素を預かる機能を持っています。このような働きをする物質を「電子伝達体」と言います。水素を外す脱水素酵素、外した水素を預かるNADと覚えてください。


水素を預かる前が「NAD+」(酸化型)と言い、水素を預かった後が「NADH」(還元型)と言います。(酸化とは電子や水素を失うことで、還元とは逆に電子や水素を得ることです。)解糖系ではグルコースからピルビン酸になるまでに、NAD+からNADHになると前述しました。こうしてNAD+がNADHに還元されるのですが、NAD+が体内の中に多く存在するものではありません。NAD+には限りがあるのです。NAD+がなくなると解糖系も続かなくなります。なので、NADHからNAD+へと戻すことが必要になります。このNADH→NAD+へ戻すことこそ、ピルビン酸から乳酸になる理由です。

嫌気性、好気性

例えば有酸素運動をしていて徐々にペースが上がってきた際に酸欠になることで、乳酸が発生してしまいます。前述した通り、酸素が不足したことが引き金になることもあれば、もしかしたらビタミンB群などの補酵素が不足したからということも考えられます。繰り返しの説明になりますが、ミトコンドリアでのこの反応は酸素が必要になり「好気性」と言います。この際、解糖系で還元されたNADHはミトコンドリアで代謝されれば電子伝達系の反応で使用されますから、酸化してNAD+へと戻ります。一方、ミトコンドリアで代謝されない場合は酸素を必要としないので「嫌気性」と言います。嫌気性の場合は、別の方法でNADHをNAD+へと戻すのです。NADHが預かっている水素をピルビン酸に押し付けるのです。この反応を進めていく酵素をLDH(乳酸脱水素酵素)と言い、NADHは水素がなくなったことでNAD+へ戻ります。しかし、水素を押し付けられたピルビン酸は乳酸へと変わります。この一連の流れがあるので、解糖系が止まることはありません。

乳酸はグルコースがピルビン酸に分解され、ピルビン酸がミトコンドリアで代謝されない際に解糖系を止めないために、NADHからNADに戻すことで生じる物質ということです。

コリ回路

乳酸をエネルギーに変換する際に重要になるのが「コリ回路」です。乳酸がエネルギー源として使われる過程をご説明します。
グルコースがピルビン酸に分解され、ミトコンドリアで代謝されず乳酸になるわけなのですが、この際に乳酸は血液で肝臓に運ばれて行きます。そこで肝臓で乳酸は「糖新生」という反応により再度グルコースへと戻ります。糖新生とは、糖質以外の材料からブドウ糖を作り出す仕組みです。肝臓や腎臓で糖新生は行われます。

※三大栄養素である糖質が唯一、必須脂肪酸(脂質)や必須アミノ酸(タンパク質)と違い必須がつかないのは体内で合成できるからなのです。

乳酸がエネルギー源として使われる過程
  1. 筋肉や赤血球でグルコースが代謝 乳酸が発生
  2. 乳酸は血液によって肝臓へ運ばれる
  3. 乳酸は糖新生によりグルコースへと戻る
  4. グルコースは再び筋肉や赤血球のエネルギーとなる

上記のようなサイクルで臓器を行き来するのです。この反応を「コリ回路」と言います。このコリ回路のおかげで乳酸は再利用され、エネルギーへと変換されるのです。しかし単純に「乳酸はエネルギー源だからいい物質だよねー。」というわけには行きません。なぜなら糖新生を行うにしても、エネルギー源が必要になるからです。グルコースからピルビン酸になる際に 2ATP 作られますが、乳酸をグルコースに再利用する為には 6ATP を使ってしまいます。4ATP のマイナスです。乳酸を再利用することで、エネルギーを消費してしまいます。ただ、乳酸から 6ATP 使ってでもグルコースに戻す必要があるということです。

コリ回路はあくまで乳酸アシドーシス(乳酸が溜まることで血液の酸性度が高すぎた状態)を防ぐ為に、低燃費にも関わらず糖新生を行なうのです。乳酸は嫌気性解糖系の老廃物という捉え方ではなく、あくまで即効性のエネルギー産生のための物質であるということ。なので、乳酸はコリ回路を通じて燃費は悪いのですが、糖新生を行うことができます。ただし、LDH(乳酸脱水素酵素)の活性が悪いと、糖新生が滞ってしまう可能性が出てくるので注意が必要です。我々の施術で筋肉へアプローチしても緩みづらいお客様の場合、この”乳酸の蓄積”または”フィラメントの酸化”による代謝障害が大きく関係していると考えています。

タンパク質とビタミンB群の重要性

オーソモレキュラー栄養療法の観点からすると、LDHを上手く機能させるためには「タンパク質」と「ナイアシン(ビタミンB3)」が重要だと考えています。LDHは酵素ですので、タンパク質が不足すると当然酵素も不足していきますし、LDHの補酵素であるNADの合成にはナイアシンが必要になります。タンパク質不足、ナイアシン不足が乳酸が上手くグルコースに変換できない理由です。

オーソモレキュラー栄養療法的に重要な栄養素があります。前述しましたが、チアミン(ビタミンB1)です。なぜなら、乳酸を二酸化炭素と水へ分解する反応に必要になるからです。またチアミンが不足するとピルビン酸からアセチルCoAに上手く変換できず、TCA回路に入れず乳酸からグルコースへと周りATPがマイナスになることがあげられます。

覚えてください!ビタミンB1はチアミンです

2018.10.16

もう1つあげると、乳酸を減少させる際に有効になるのがビタミンEです。乳酸を筋肉細胞から追い出す、クレアチンリン酸を筋肉中に保持することができます。ビタミンEがないとクレアチリン酸は利用されず尿によって出てしまいます。

上手く乳酸が再利用されるかどうかはタンパク質やビタミンB群、ビタミンEがキーポイントになるでしょう。

遅筋、速筋のエネルギー源

無酸素運動の場合、速筋をより多く使います。速筋のエネルギーは糖質です。一方で有酸素運動は主に脂質をエネルギーとして使用します。有酸素運動の場合、脂質エネルギーと乳酸がエネルギー源にもなります。

糖質は肝臓や筋肉に貯蔵されていて体内に400gあります。脂質は10,000gでした。体内にあるエネルギーを効率よく長く使うためには、脂質エネルギーを使ことです。なので心拍数を意識して有酸素運動を行うことが重要になります。ダッシュを繰り返し行なっていたり、心拍数が最大心拍数の70%以上を超えるようなランニングを行うと、無酸素運動を行なっていることと近くなり、糖質をエネルギーとして使用することになり効率が悪くなります。しかし、速筋で作られた乳酸を遅筋へ回して再利用することもできます。

栄養療法にプラスして運動をはじめてみませんか?

2019.02.15

乳酸蓄積が進むと…

乳酸はネルギー源として再利用することができますが、乳酸の蓄積は体の酸化の原因になります。乳酸が蓄積することでAGEを増加させることで結果的に老化や病気の元となります。

老化の原因、その名もAGEs

2018.11.22

乳酸は単純な糖なので、余剰に糖が体内にあると毒性を持ちます。蓄積した乳酸は慢性的な炎症を起こし続けます。慢性的な炎症は、ガンが最たるものです。どうしたら乳酸が蓄積しやすくなるか?現代人の食事内容では、精製糖質が1日に60%以上摂取していると言われています。この食事内容では乳酸が増え続けます。精製糖質が毒性を持っていて、これが乳酸に変わるとは思ってもいないわけです。精製糖質を過剰摂取し、ビタミンやミネラルが不足していることで慢性的な疾患、現代病と言われるガンや心筋梗塞、鬱病などを発症していきます。乳酸はエネルギー源になりますが、乳酸が蓄積することで有害性があるということを理解しておくことも大事だと思います。

西尾
エネルギー源となる乳酸の特徴と乳酸が蓄積することでの弊害が、ご理解いただけたでしょうか?私もサッカーに打ち込んでいた頃は、栄養など気にせずがむしゃらにプレーしていました。ダッシュを繰り返した結果、90分ゲームで後半早々にはダッシュができないような状態でした。今考えると乳酸を上手く処理できず、蓄積していたのだと考えられます。現在、定期的に有酸素運動を行なっていますが、乳酸を感じることもなく走ることができています。この1年間は精製糖質を控え、ビタミンB群(特にチアミンとナイアシンは1日2錠)とビタミンE、そしてプロテイン(タンパク質)を摂取していることで、健康体を維持できている要因だと感じています。
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オーソモレキュラー栄養療法で筋痛症改善を!

神戸ナカムラクリニックの中村篤史院長がUROOM調布成城にてオーソモレキュラー診療(自由診療のカウンセリング)を不定期ではありますが月に1回、10名様限定で実施いたします。筋痛症を根本から改善されたい方、筋肉の質を改善されたい方などはぜひご参加ください。



腰痛改善の鍵は高たんぱく質


筋肉のロックが原因となる腰痛、股関節痛、膝痛、五十肩などの疼痛ですが、発症した方の多くが、”質の栄養失調”に陥っています。
腰痛を改善するための体質改善にとても重要な栄養素、たんぱく質を摂取することで痛みが改善するメカニズムを詳しくご説明いたします。


ABOUTこの記事をかいた人

西尾直輝

MTRセラピスト(プロアスリートチューニング)
サッカー歴23年。プロサッカー選手を志すが自分の能力、体力の限界を感じ引退。 セルフ筋肉チューニング整体を筋肉チューニング整体院UROOMのオーナーである續池より学ぶ。そこで筋肉チューニングを知り、短時間で身体の軽さや痛みが緩和する事に衝撃を受ける。この技術を使い多くの方の痛み、ストレスを改善する事を決意。今まで酷使してきた体をメンテナンスすることに日々精進中。