「身近なアレが影響している?… 」最近よく聞く“化学物質過敏症”と花粉症について

目のかゆみや鼻水、咳、倦怠感…
春になると、花粉症に悩まされて憂鬱な思いになる人も多いかもしれません。
一方で季節や花粉に関係なく同様のアレルギー症状が出たり、それ以外にも頭痛や吐き気、めまいなどの自律神経症状を伴うことがあります。
最近よく聞く化学物質過敏症です。
今では日本人の10人に1人が、軽度なものも含めて何らかの化学物質に対して過敏反応が出ているといわれています。
花粉症も「国民病」といわれるほど増えており、2019年の段階で日本人の4割近い人がスギ花粉症と推定されている他、アレルギー性結膜炎や鼻アレルギーの有病率も同様の傾向が見られます(※)。
(参考:花粉症環境保健マニュアル2022
なぜこういった病気が増えているのでしょうか?

化学物質過敏症とは

鼻づまり、咳、皮膚のかゆみ、疲労感、吐き気、どうき、うつ症状…
化学物質過敏症は、特定の化学物質やその混合物に対して、上記のような様々な症状が出てしまう病気のことをいいます。
身近なところでは香料や建物の建材、洗剤、虫よけスプレー、食品添加物、農薬、排気ガスや大気汚染などが挙げられます。色々な化学物質に触れ続けて、それが体の許容量を超えてしまった時に、わずかな量でも過敏に反応してしまうようになります。
花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と似た症状が出ることもありますが、化学物質過敏症の症状は多岐にわたっており、個人差もかなり大きいのが特徴です。
原因も完全には解明されていないことから、他の病気やアレルギー疾患との区別や診断が困難なこともしばしばです。
また、原因となる化学物質も最初は一種類だけだったのが、途中から非常に多くの化学物質によって症状が引き起こされてしまうこともあります(多発性化学物質過敏症)。
化学物質過敏症は、以下のような様々な要因が絡んでいると考えられています。

  • 環境要因
    長期間にわたる化学物質への曝露が過敏症を引き起こします。工場や農場、建設現場、美容室などといった化学物質が使用される職場環境の他、建材や家具、化粧品、香料などの居住環境や大気汚染、食品添加物などがあげられます。
    また、消毒など過度に清潔な環境で育った子供も、免疫システムが十分に働かないことで過敏症にかかるリスクが高まるのではないかと言われています(ハイジーン仮説)。
  • 免疫系の異常
    通常は、体に害を及ぼす可能性のある病原菌やウィルスを攻撃して排除するのが体の免疫システムですが、正常に機能しないことでこれらを排除できなかったり、逆に体に害のないものにまで過剰に反応して体に負担をかけてしまったりします。
  • その他
    遺伝的要因として、家族に過敏症の症例がある場合、過敏症のリスクを増加させる可能性があるといわれていますが、まだ解明されていない部分も多いのが現状です。
    他にも、ストレスなどの心理的要因も、自律神経系の乱れを引き起こして過敏症の症状を悪化させる可能性があるとされています。

化学物質過敏症改善のためには、まず第一に該当する化学物質を特定し、それを出来るだけ避けて、生活環境や職場環境を整えていくことが大切になります。
しかし、我々をとりまく有害化学物質の種類は増え続けて現在8万種類にものぼるとも言われており、一つ一つの化学物質の人体への影響を調べたり、全てを避けることは実質的に不可能です。
そう考えると、症状改善のためには外側の環境だけでなく内側の環境――免疫や解毒をはじめとする体の機能を正常化させていくアプローチが必須であり、この点は花粉症と共通している部分であると言えます。

では次に花粉症についてみていきましょう。

花粉症について

花粉症は日本人に最も多いアレルギー疾患の一つで、スギやヒノキ、ブタクサなどの花粉によって目のかゆみや涙、鼻水、くしゃみ、皮膚のかゆみなどの症状が引き起こされます。
化学物質過敏症との違いは、アレルゲンが花粉というところと、化学物質過敏症のような自律神経症状は出ないというところです。

花粉症は栄養療法で治しましょう

一般的な治療法としては、アレルゲンである花粉との接触を出来るだけ避けながら、抗ヒスタミン薬や点鼻薬、点眼薬などを使って症状を抑えたり、繰り返しアレルゲンに曝露させることで体を慣れさせていく「アレルゲン特異的免疫療法」などの治療が行われます。
しかしながら、薬物治療は効かなければ体への負担も大きいステロイド薬を使わざるを得ないし、免疫療法も効くか効かないかは1年くらい経たないと分からない上に特定の花粉以外のアレルゲンに対しては無効という問題があります。
これらを否定するわけではありませんが、結局は対処療法なので、より根本的な部分に目を向ける必要があります。
そのために、花粉症においても作用する体の免疫システムについてみていきましょう。

免疫システムとは

免疫システムとは、体内に侵入した異物(抗原)や病原体(細菌、ウイルスなど)を識別し、排除するシステムです。
このシステムが正常に働くことで私たちの体は感染症や病気から守られているのですが、何らかの理由で異常が生じて色々な病気や症状を引き起こしてしまいます。
花粉をはじめとするアレルゲンが体内に侵入しようとする時に、体の中に入れないようにする防御システムの最前線で働くのが、免疫システムの主役となる「免疫グロブリン(Ig)」というタンパク質です。
この免疫グロブリンには、IgG、IgA、IgE、IgM、IgDの5種類の抗体がありますが、中でもIgA(免疫グロブリンA)は目や鼻など外界と接する粘膜で主に働き、外から侵入しようとする細菌やウィルス、花粉など全てをブロックしてくれます
他の抗体は反応できる抗原が決まっていますが(特異性)、IgAは特異性が低く、様々な病原体に対応することが出来ます。
つまり、特定のアレルゲンだけに反応するのではなく、スギやヒノキ、ブタクサなどの花粉をはじめ、ハウスダストやダニ、カビなど吸引型アレルゲンと呼ばれるもの全てをくるんで、外に排出してくれるのですね。
アレルギー予防の最前線で働いてくれているこのIgA抗体は、粘膜の多い腸にもたくさん存在しています。

腸管免疫について

腸には全身の約7割(小腸が5割、大腸が2割)の様々な免疫細胞が集まっていて、「最大の免疫器官」ともいわれています。
腸におけるこの免疫システムのことを「腸管免疫」といいます。
その作用をみてみましょう。
小腸の内壁には絨毛とよばれるひだが敷き詰められていますが、ところどころにひだのない平坦な「パイエル板」というリンパ組織の一種からなる領域があります。
ここにはT細胞やB細胞、NK細胞などの様々な免疫細胞が集まっており、絨毛が栄養を吸収するのに対して、このバイエル板ではあらゆる病原菌やウィルスを異物として退治します。
先述のIgAも小腸で多く産生され、腸粘膜で病原体や異物の侵入を防ぐ役割を果たしています。
大腸にはパイエル板はありませんが、膨大な量の腸内細菌が生息していて免疫をバックアップしていますし、IgAも腸内細菌と相互に作用し合って免疫システムを支えています。
腸内環境が良いと腸管免疫もしっかり働いてくれるということです。
このように、腸内環境を整えることが免疫機能正常化のキーポイントとなります。

小腸にある免疫の働き

免疫機能を正常化させるためにー腸内環境改善が全てのカギ

●腸に負担のかかるものを減らす

良いものを摂っていくことは大事ですが、その一方で体に悪いものを摂り続けていたら本末転倒です。
花粉や化学物質を避けることと同じように、まずは身体に負担のかかるものを減らしていくことが大切。
その代表的なものとして、小麦や乳製品が挙げられます。
小麦に含まれるグルテンや乳製品のカゼインは、通常の消化酵素では分解されにくいため腸内に止まり、腸粘膜に炎症を引き起こして腸のバリア機能を破壊してしまうのです。
それにより、体内に異物が侵入しやすくなります。
他にも、糖質の摂りすぎや腸に負担をかける添加物、悪い油のたくさん入った食品などを避けることも大切ですし、抗生物質の乱用や消毒の使い過ぎなども腸内細菌に悪影響を及ぼすことが分かっています。
要はご自身の生活スタイルを見直していくということですね。
こうした悪いものを減らしていくアプローチは、花粉症のシーズン真っただ中だともう間に合わないかもしれませんが、体質改善には必須です。
次のシーズンを見据えて少しずつ改善していきましょう!

●食物繊維を摂る

腸内細菌が産生する主要な有機酸である「短鎖脂肪酸」は、免疫システムへの様々な効果が知られていますが、IgA抗体の産生を増強することも分かっています。
産生されたIgAは腸粘膜で働くほか、血流によって全身の粘膜にも運ばれて正常な免疫システムの働きを強力にサポートします。
この短鎖脂肪酸は、大腸で腸内細菌が食物繊維やオリゴ糖を発酵させることで生成されます。
また、食物繊維はもともといる善玉菌を元気にする役割があるので、繊維の多い野菜やキノコ、海藻などをしっかり摂ることで善玉菌が増えやすくなります。
ヨーグルトに含まれているある種の乳酸菌も花粉症の症状を軽減することが分かっていますが、毎日同じものを摂るのは腸の負担になりますし、ヨーグルトの乳タンパク(主にカゼイン)は腸内環境を悪化させることがあるので注意が必要です。
漬物や納豆、キムチなどの色々な種類の発酵食品を上手に使って善玉菌を腸に届けるのがベストです。
参考:短鎖脂肪酸とIgAについて(「酢酸による免疫グロブリンAの機能制御」

●ビタミンD

オーソモレキュラー栄養療法では、ビタミンDを花粉症改善に重要な栄養素としてとらえています。

あなどれないビタミンDのスーパー効果

ビタミンDは細胞の核に直接作用し、細菌やウィルスを攻撃して殺す作用を持つ「抗菌ペプチド」(小さなタンパク質のかたまり)を作るよう指令を出していることが分かっています。
ビタミンDの摂取方法には2種類あり、一つは食品から摂ること、もう一つは日光に当たって紫外線から体内で生成することです。
冬になると風邪を引きやすくなるのは、単純に寒くなったり乾燥したりするからではなく、日照時間が短くなることで体内のビタミンD濃度が減り、抗菌ペプチドの量が減って免疫が弱まるからであることが分かっています。
また、皮膚にも「β―ディフェンシン」という抗菌ペプチドがたくさん出ており、皮膚上の常在菌から体を守ったり、皮膚のバリア機能を調節していますが、体内のビタミンD濃度が減ることで抗菌ペプチドができにくくなり、アトピー性皮膚炎の症状が悪化してしまうことも研究によって明らかになっています。
ビタミンDは他にも、免疫の過剰反応を抑制したり、腸粘膜を丈夫にして腸内環境を整える役割もあります。
ビタミンDはサケ、マスなどの魚介類や干しシイタケやキクラゲなどのキノコ類に多く含まれていますが、実際には食事のみで補うことは難しいので、程よく日光に当たることもとても大切です。

●タンパク質

オーソモレキュラー栄養療法で重視しているタンパク質は、免疫においても重要な役割を果たしています。
具体的には、免疫細胞(白血球)の増加や抗体の産生に関わっています
免疫細胞には好中球やマクロファージ、樹状細胞など様々な種類があり、これらが連携をとって外部から侵入した病原菌等に対応してくれていますが、免疫細胞の主成分はタンパク質からできています。
つまり、タンパク質が不足していると免疫細胞が十分に働かないということです。
また、抗体も免疫グロブリンというタンパク質から作られているため、抗体産生にもタンパク質は必須です。
実際、動物実験ではマウスにタンパク質の摂取が不足すると、免疫細胞の減少や脾臓、胸腺などの免疫に関わる器官に成長阻害が起きたことなども確認されています。
ほかにも、解毒に関わる重要な酵素に「グルタチオン」があり、化学物質過敏症はグルタチオンが不足すると引き起こされやすいことが分かっています。

消化力の衰えは年齢のせいじゃない?「酵素」の働きを高めて食事を楽しむ

酵素についての詳しい内容は上記記事を参考していてください!

グルタチオンは3種類のアミノ酸がくっついた「トリぺプタイド」というタンパク質ですが、肝臓をはじめとする体内のあらゆる箇所に存在し、強い抗酸化作用や解毒作用に優れています。
毒性のある代謝産物―ー毒物、アルコール、発がん性物質、化学物質などー―を無毒化してくれるのですね。
近年では感染症抑止の可能性があるという研究結果も出ているようですが(※)、このグルタチオン生成のためにも、元となるタンパク質をしっかり摂ることが大切。
ちなみにグルタチオンはレバーや肉類をはじめ、パン酵母やキウイ、アボガドなどにも多く含まれています。
※参考
「グルタチオンに新型コロナ重症化抑止の可能性 スポーツ整形外科領域の研究グループが報告」
「COVID-19発症の補助療法としてのグルタチオンおよびN-アセチルシステインの噴霧療法」”Nebulization of glutathione and N-Acetylcysteine as an adjuvant therapy for COVID-19 onset”

まとめ

体の免疫機能を高めるためには、まずは負担になっていた生活習慣や食習慣を見直して、悪いものを減らしていくことが第一です。
次に、腸内環境を整えることを中心に据えて、タンパク質をはじめとする必要な栄養素を取り入れていきます。
今までの習慣の積み重ねが、現在のあなたの体を作っています。
腸内環境改善への取り組みは、花粉症や化学物質過敏症だけではなく他の色々な病気予防にもつながっていきます。
ぜひ長期的な視野をもって取り組んで下さいね!

Visited 346 times, 1 visit(s) today

オーソモレキュラー栄養療法で筋痛症改善を!

神戸ナカムラクリニックの中村篤史院長がUROOM調布成城にてオーソモレキュラー診療(自由診療のカウンセリング)を不定期ではありますが月に1回、10名様限定で実施いたします。筋痛症を根本から改善されたい方、筋肉の質を改善されたい方などはぜひご参加ください。



腰痛改善の鍵は高たんぱく質


筋肉のロックが原因となる腰痛、股関節痛、膝痛、五十肩などの疼痛ですが、発症した方の多くが、”質の栄養失調”に陥っています。
腰痛を改善するための体質改善にとても重要な栄養素、たんぱく質を摂取することで痛みが改善するメカニズムを詳しくご説明いたします。